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札幌家庭裁判所小樽支部 昭和63年(家)347号 審判

主文

本件申立てを却下する。

理由

1  申立ての要旨

申立人は、昭和63年1月2日出生し、中山利昭、同恵理子夫婦間の「二男」として届出がなされたが、申立人は、出生当初から鎖肛及び外性器異常により一見して男女とも判定し難い状態にあった。その後、申立人は、同年4月25日から○○大学医学部付属病院に入院し、同年5月16日、上記疾患の治療に伴い今後女子として養育すべきであるとの結論から、精巣摘出手術を受けた。そして、申立人は、今後、膣形成術、女性ホルモン補充療法の施行を受ける予定であり、中山利昭、同恵理子夫婦としても、申立人を女子として養育していく予定である。

よって、申立人は、本籍○○市○△4丁目22番地筆頭者中山利昭の戸籍中、その父母との続柄欄に「二男」とあるのを「長女」と訂正することの許可を求める。

2  当裁判所の判断

(1)  本件記録中の戸籍謄本、出生届書写、○○大学医学部泌尿器科医師佐々木達也作成の「戸籍上の性の訂正に関する意見及び診断」と題する書面及び当庁調査官作成の調査報告書を総合すると、次の事実が認められる。

ア  申立人は、昭和63年1月2日、市立○○病院において、中山利昭及び同恵理子夫婦の第二子として出生したが、出生当初から鎖肛及び外性器異常(外性器の形態が一見男性型か女性型か明らかでない。)の障害を伴う状態にあった。そのため、申立人に対し、直ちに人工肛門造設術が施行されたが、それとともに性染色体の検査も行われたところ、男性型(46XY)であることが判明した(そこで、中山利昭らは、同月16日、申立人を二男として出生の届出をした。)。

イ  続いて、同年4月、申立人について排尿障害の症状が認められたため、同人は、同月25日、○○大学医学部付属病院泌尿器科に入院し、検査を受けたところ、同人の鎖肛、外性器異常、排尿障害の原因については、脊椎管内の仙骨部位付近に脂肪腫があり、それが付近の神経を圧迫し、癒着させているため、そこから先に伸びる神経が膀胱を中心として正常に機能しないことによるものであることが判明したが、同時に、同人の生殖腺組織としては精巣が認められること、内性器としては子宮、膣が存在しないこと等も明らかとなった。

ウ  更に、同病院においては、同人の排尿障害に対し、カテーテルを尿道から差し込み尿を抜き取る療法を用いることとし、そのためには現在の尿道を生かし、外性器を女性型に形成するのが妥当であると判断されたことから、同年5月16日、同人に対し精巣摘出術が施行された。そして、同人に対する今後の治療方針としては、いずれ時期をみて、膣形成術、女性ホルモン補充療法、外性器の形成等を行うことが予定されているが、現在においては未だ施行されていない状況である。

(2)  ところで、戸籍訂正は、戸籍の記載が当初から不適法又は真実に反する場合等についてなされるものであるところ、上記の事実からみるならば、申立人については、その性染色体、生殖腺、内性器の形態等からみて、そもそも男子として出生したものであることが明らかであり、更に、申立人は、現在、性染色体はもとより、その他においても女性として何らかの身体的特徴を備えている訳ではないことが認められる。そうであれば、申立人について、戸籍上の性別を男から女に訂正すべき余地がないものといわざるをえず、本件申立ては理由がないものというべきである。

(3)  よって、本件申立てを却下することとし、主文のとおり審判する。

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